結論|問診票を電子化するだけではDXとはいえない
乳幼児健診のDXでは、保護者がスマートフォンから事前に問診票を入力し、健診情報をデジタルで連携する仕組みが進められています。
乳幼児健診DXで現場の業務がどう変わるのか、PMHと健康管理システムの役割については、**「乳幼児健診DXで現場はどう変わる?担当者が確認したいこと」**で整理しています。
氏名などの基本情報をあらかじめ設定したり、自宅などで事前入力したりできるため、保護者と自治体双方の負担軽減が期待されます。
一方で、現場の担当者として考えておきたいのが、
「今使っている紙の問診票を、そのままスマートフォンに置き換えてよいのか」
という点です。
問診票を電子化すること自体が、DXのゴールではありません。
私は、電子化をきっかけに、一つひとつの質問を「何のために聞いているのか」という視点で確認することも必要ではないかと考えています。
電子問診には、紙にはないメリットがある
こども家庭庁の説明では、電子問診では氏名等の基本情報があらかじめ設定され、健診ごとに同じ情報を繰り返し入力する負担を減らす仕組みが示されています。
また、健診前にスマートフォンから問診票を入力できるため、保護者が自宅などで都合のよい時間に回答できます。
青森県むつ市の実証では、入力内容を下書き保存し、後から修正できる機能も保護者から評価されています。
こうした点は、紙の問診票にはない利便性です。
自治体側にとっても、紙の問診結果を職員がシステムへ入力する作業が減れば、事務負担の軽減につながります。
一方で、「画面で答える」ことを前提に考える必要がある
デジタル庁が紹介したむつ市の実証では、健診従事者側から、
- iPadで問診内容をスクロールしながら確認するため、紙と比べて一覧性に課題がある
- 歯科健診では、1項目を入力するために複数回のタップが必要になる
といった課題も報告されています。
これは健診従事者側の課題ですが、私は保護者が回答する場面でも、似た視点が必要だと考えています。
紙の問診票であれば、何枚あるのか、あと何問くらい残っているのかを視覚的に把握できます。
一方、スマートフォンでは画面をスクロールしながら回答するため、質問数が多いと、
「あとどのくらい続くのだろう」
と感じる可能性があります。
これは国の資料で示された事実ではなく、私自身の現場経験から感じている点です。
だからこそ、紙からデジタルへ移行する際には、単に同じ質問を画面上に並べるだけでよいのかを検討する必要があります。
乳幼児健診の問診票には、さまざまな目的の質問がある
乳幼児健診の問診票には、自治体によって違いはありますが、実際の現場では、
- 子どもの発育・発達
- 栄養や食生活
- 生活習慣
- 保護者の心身の状況
- 育児状況
- 親子の関係
- 事業評価等に使用する項目
- 自治体独自の項目
など、さまざまな目的の質問が含まれています。
私自身、母子保健の現場で問診票を扱うなかで、質問項目が少しずつ追加され、結果として問診票全体が長くなっていくことを経験してきました。
一度追加された質問は、
「以前から聞いているから」
「計画の評価で使っているから」
「念のため確認しているから」
といった理由で残り続けることもあります。
もちろん、必要な項目まで削ればよいという話ではありません。
今回確認した国の資料からは、「どの項目を自治体が削除・変更できるのか」までは確認できませんでした。
だからこそ、制度上必要な項目やシステム仕様を確認したうえで、それ以外の質問については目的を整理する必要があります。
私なら、電子化の前に「3つ」を確認する
もし私が自治体の乳幼児健診DXを担当するなら、現在の問診票について、少なくとも次の3点を確認します。
1.この質問は何のために聞いているのか
健診当日のアセスメントに使うのか。
継続支援につなげるためなのか。
事業評価や国・都道府県への報告に必要なのか。
まず、質問の目的を明確にします。
2.回答を実際に活用しているか
質問していても、その回答を健診当日の支援や、その後のフォローにほとんど使っていない項目がないか確認します。
「聞いていること」と「活用していること」が一致しているかを見ることが重要です。
3.スマートフォンで答える場合も、この形でよいか
紙では答えやすかった質問でも、スマートフォンでは入力しづらくなる可能性があります。
質問数、選択肢、自由記載の量などを、デジタルで回答する人の立場からもう一度見る必要があります。
質問を減らすことが目的ではない
ここで注意したいのは、
「DXだから問診項目を減らせばよい」
という話ではないことです。
乳幼児健診では、子どもの発育・発達だけでなく、保護者や家庭の状況も含めて把握し、必要な支援につなげる必要があります。
また、事業評価など継続的な把握が必要な項目もあります。
今回確認した資料では、国が定める具体的な共通問診項目や、自治体が独自に追加・削除できる範囲までは確認できませんでした。
そのため実際に見直す際には、制度上必要な項目、標準仕様、自治体独自項目を整理したうえで判断する必要があります。
重要なのは、**「減らすこと」ではなく、「必要な質問を、必要な理由をもって残すこと」**だと考えます。
まとめ|紙の問診票を、そのまま画面に移さない
母子保健DXでは、スマートフォンによる事前問診やデータ連携によって、保護者の利便性向上や自治体職員の事務負担軽減が期待されています。
その一方で、デジタルでは紙とは異なる操作性や一覧性の課題もあります。
だからこそ、電子化するときには、
「今まで紙で聞いていたから、そのまま電子化する」
のではなく、
「この質問は何のために必要なのか」
を一度立ち止まって確認してもよいのではないでしょうか。
問診票を電子化すること自体がDXのゴールではありません。
保護者にとって回答しやすく、職員にとって情報を活用しやすく、そして必要な支援につながる。
そのために問診のあり方まで見直すことが、乳幼児健診DXを業務改善につなげる一歩になると私は考えています。
参考資料
- こども家庭庁「母子保健DXに係る自治体説明会」(2026年8月7日)
- こども家庭庁「令和8年度 母子保健デジタル健診実証事業 新規実施自治体 公募のお知らせ」(2026年8月7日)
- デジタル庁「乳幼児健診のデジタル化で『35分早く帰れる』 青森県むつ市の取組と高い保護者満足度の背景」(2026年4月7日)
※本記事は2026年9月時点で公表されている資料をもとに作成しています。制度・仕様等は今後変更される可能性があります。最新情報は各省庁の公式資料をご確認ください。

