結論|「ん?」をきっかけに、親子をもう少し知ろうとする
乳幼児健診の問診票に、「はい」「いいえ」という選択肢があるとします。
しかし、そのどちらかに◯をつけるのではなく、間にある「・」に○がついていたり、△がついていたり、一度書いた回答が消されていたりすることはありませんか?
私はそんな問診票を見ると、
- どちらとも言い切れないのかな
- 何か伝えたいことがあるのかな
- この質問は答えにくかったのかな
そして、その後の面談で何を聞くか、どう聞けば話しやすいかを考えていました。
乳幼児健診で大切なのは、問診票の回答を確認することだけではありません。
小さな違和感に気づき、その親子や家庭をもう少し知ろうとすること。
今回は、乳幼児健診で保健師が何を見て、どのようにアセスメントにつなげているのかを考えます。
※問診票の記入例は、私自身の複数の実践経験を一般化・加工したものです。
問診票の「回答以外」も面談の手がかりになる
ここからは、私自身の実践経験です。
紙の問診票を使っていた頃、見ていたのは回答内容だけではありませんでした。
例えば、次のようなところです。
- 「はい」「いいえ」の間に○がついている
- ○ではなく△がついている
- 空欄になっている
- 一度書いた回答を消して書き直している
(紙から電子問診へ変わることで、これまで見えていた情報がどう変わるのかについては、こちらの記事で考えています。)
そんな小さなところから、保護者が何を伝えたいのか、どんな背景があるのかを想像することがありました。
そして、これまでの相談歴や健診での経過、保護者の様子などと重ねながら、面談の入り方を考えていました。
質問を簡単な言葉に変えた方がよいかもしれない。
具体的な場面を挙げて聞いた方が答えやすいかもしれない。
少し時間をかけて話を聞いた方がよいかもしれない。
これまでの経過を踏まえると、もう少し確認しておきたいことがあるかもしれない。
場合によっては、保護者と子どもの関わりも意識しながら、実際の親子の様子を見ていきます。
私自身の経験を振り返ると、次のような流れで考えていたのだと思います。
- 小さな違和感に気づく
- 複数の可能性を考える
- もう少し知るために、何を確認するか考える
- 質問や関わり方を調整する
- これまでの経過や親子の様子など、ほかの情報と重ねる
- 必要な支援を考える
問診票は、面談を進めるための情報の一つです。
その情報をきっかけに、親子や家庭をもう少し知ろうとすることが、次のアセスメントにつながっていきます。
保健師のアセスメントは複数の情報を重ねて考える
こうした考え方に関連する研究があります。
小出・猫田(2007)は、3か月児健診と3歳児健診で、保健師が継続支援の必要性を判断する際に重視するアセスメント項目を調べています。
3か月児健診では、「家族の背景」「家族のサポート力」「対人関係のあり方」「母親の体調」「子どもへの接し方」「子どもの気性」「育児への対処」「子どもの発育・発達」の8因子が抽出されました。
3歳児健診でも、家族の背景やサポート力、子どもの生活状況や発達、育児への対処など、複数の側面が含まれていました。
これは、2007年に政令指定都市2市を対象として行われた研究です。現在のすべての乳幼児健診に、そのまま当てはめることはできません。
それでも、保健師が継続支援の必要性を考える際に、子どもの発育・発達だけでなく、親子や家族に関する複数の側面を重視していたことを示す研究として参考になります。
また、山下ら(2023)は、新任期保健師研修における母子支援の事例検討で、参加者が行った質問の内容を分析しています。
質問には、子どもの成長発達だけでなく、親の人物像や生活歴、育児観、家族関係やサポート力に関する内容が含まれていました。さらに、支援の方法やタイミングの検討を促す質問も見られました。
ここで参考にしたいのは、アセスメントでは一つの情報だけで完結せず、複数の情報を重ねながら、次に何を確認し、どう関わるかを考えていくという点です。
乳幼児健診は今も母子保健の大切な柱
母子保健を取り巻く事業が増えている自治体も少なくありません。
それでも私は、乳幼児健診は今も母子保健活動の大切な柱の一つだと考えています。
健診には、乳幼児の健康の保持・増進や疾病の早期発見だけでなく、保健指導や子育て支援など、さまざまな役割があります。
「乳幼児健康診査事業実践ガイド」でも、保健指導、妊娠期から把握した支援情報の活用、多職種間の情報共有、支援対象者のフォローアップなどが乳幼児健診事業の中に位置づけられています。
だからこそ、健診を単に「決められた項目を確認する場」にしてしまいたくありません。
保健師だけでなく、医師、歯科医師、看護師、栄養士、歯科衛生士、心理職など、それぞれの専門職が健診の中で何を見ているのか。
何に気づき、その情報をどう親子への支援につなげているのか。
それを言葉にして共有することには、意味があると思います。
DXを機に「何を見るのか」を言葉にしておきたい
乳幼児健診DXによって、問診票の形や情報の扱い方は変わっていきます。
そこで考えたいのは、「紙を残すか、デジタルにするか」だけではありません。
(問診票をデジタル化する前に、項目や運用そのものを見直す視点については、こちらの記事で整理しています。)
これまで健診の中で、私たちは何を見ていたのか。
そこから何を考え、どう支援につなげていたのか。
一度、言葉にしてみることが大切ではないでしょうか。
- 必要な情報であれば、DX後にどこで、どう確認するのかを考える
- 別の方法で得られる情報なら、よりよい方法に変える
- 必要性を説明できない情報や作業なら、見直す
紙のやり方をそのまま残すのではなく、乳幼児健診に関わる専門職が「この健診で何を見るのか」を改めて考えながら、DX後の健診をつくっていく。
私は、そこが大切だと思っています。
新人保健師とは「気づいた後」を一緒に考える
新人保健師に伝えたいのも、「ここを見ておいて」というチェックポイントだけではありません。
例えば、問診票を見て「ん?」と思ったときに、一緒に考えてみます。
- 何が気になった?
- どんな可能性が考えられる?
- もう少し知るには、何を聞いてみる?
山下ら(2023)の研究でも、新任期保健師と先輩保健師がともに参加する事例検討で、経験に応じた質問を重ねることが、アセスメントを促す方法として示唆されています。
「なにか気になる」というアンテナを増やすこと。
そして、気づいた後に、何を考え、何を確認するのかを一緒に言葉にすること。
こうした積み重ねが、アセスメント力を育てる一つの方法になるのではないかと考えています。
まとめ|気づきを、親子を知る出発点にする
乳幼児健診では、問診票の回答だけでは分からないことがたくさんあります。
小さな「ん?」に気づいたら、その先を少し考えてみる。
何が背景にあるのか。
もう少し知るには何を聞けばよいのか。
これまでの経過や親子の様子と、どうつながるのか。
そして、どのような関わりが必要なのか。
こうした思考の積み重ねが、保健師のアセスメントにつながっているのだと思います。
DXによって健診の形が変わる今だからこそ、紙のやり方を守ることを目的にするのではなく、これまで乳幼児健診で何を見て、何を考えていたのかを言葉にする。
そして、乳幼児健診に関わる専門職みんなで、これからの健診をつくっていけるといいなと思います。
参考資料
- 国立研究開発法人国立成育医療研究センター(2018)「乳幼児健康診査事業実践ガイド」〔こども家庭庁ウェブサイト掲載〕
- 小出恵子・猫田泰敏(2007)「乳幼児健診時の保健師の継続支援の必要性に関するアセスメントの実態」『日本看護科学会誌』27巻4号、42–53頁
- 山下千絵子・塩川幸子・藤井智子(2023)「新任期保健師のアセスメント力向上を目指した事例検討における質問の特徴―母子の個別支援を通して―」『日本地域看護学会誌』26巻1号、69–76頁
